男を抱くのは嫌いではない。

悪趣味といわれようとなんだろうと、同等の力を持つものを屈服させ目の前に跪かせる行為は、自身の強さに心置きなく酔える、またとない機会だ。勿論、相手にそこまでさせるのは、ベッドの外での力の差によってだ。好意だの何だの、同性に懸想されてましてその結果に交合があるなど、虫唾が走る。

だから、身体を交わすならば自分を嫌っている相手がいい。力の差に絶望して阿るのも気概だけは失わずにこちらを睨み据えてくるのも、どちらもそれなりの味わいがある。重要なのは、完膚なきまでに相手の矜持を叩き折ること。身体の快楽など問題にならぬ、優越感に裏づけされた陶酔がそこにはある。

 

 女性と違って、男は自分をごまかすことが不得手だ。自分を陵辱さしめるものが、相手に自分を差し出す利他の好意だとか、愛情ゆえだとか自分の物語に酔わない分、辱めに弱い。ストレートに敗北感に打ちひしがれてくれる。

 昔、半年の消耗戦の末に漸う吸収合併に持ち込んだ競合の役員をそうやって従わせたことがあった。翌日、どこそこの路線に飛び込んでミンチになったという。そのままであれば自分の下で振るうことになったろう辣腕を失ったのは痛かったが、それに勝る満足感を得た。あれは、とりわけていい思い出だった。

 

 悪趣味だと、わかっている。これは倒錯だと。自分の趣味嗜好を肯定するために一巡りしているに過ぎない。

 ―――待ってろよ、同胞。

 自分と同じ愉悦を知る男の寝室へ、歩みを進めた。屈辱を味わうために。

 

 

 

 


BLというものを甘やかに描ける人はすごいと思います(大事なので何度でも言う)