改札をでると、快速も通り過ぎるその町はすでに灯を落としていた。酔いの醒めぬまま、という体で寄り添って歩く。アルコールなど、とっくに分解されているのに。この後私は、コンビニで当座の衣類と水と日用品を買って、この友人を寝かしつけて休まなければならない。それが、許された役割だと思う。

 なのに。

 

 なのに、何故わたしはウイスキーの壜なんて抱えているんだろう。しかも量販メーカーの、中ボトル。度数と製造法だけでシングルモルトと名乗るのを許されているようなフェイク。こんなのわたしの選択肢じゃない。

 「七緒」

 滅多矢鱈に杯を呷るわたしの横で、乱菊さんは頬杖をついている。

 「やめときなさいよ、アンタ」

 あなたこそ。さっきまでのへらへらした様子はなくなったけど、抜けてないでしょう。

 「…もとからそんなに酔ってないわよ。あたしは」

 グラスをおざなりに傾けて、返す。目も唇も妙に濡れているのに、普通なものですか。

 「………」

 グラスを置いた。そういえば、何で隣り合ってるんだろう。向かい合わせに座ればいいのに。思ったけれど後ろに回られて抗議できない。とたん、顎を掴まれて、上向かされて、くちづけられた。

唇に熱さと、その後に冷気を感じるのは度数の高い揮発性の酒精のためだ。

 「酔ってるかどうかなんて、今更言い訳にならないのよ」

 

 「七緒」

 アンタはどうしたいの。酔ってるからできることとか正気だと許されないとか、どうでもいいの。アンタはどうしたいの?結果を受け入れる覚悟だけ決めなさい

 言葉は耳朶でなく皮膚を震わせて染み入る。それはわたしのなかで凝って、何も見えなくする。わかるのは、乱菊さんだけ。

 「わたしの…」

 どうしたいのか。正気では、いられない。良識が、否定している。こんな関係性はない。

 息のかかる至近距離。

 

 靄のかかった頭は、何の像も結ばない。なのに乱菊さんの表情も握った指の白さもしっている。ずっと見ていたと、今更に気づく。

 ―――このひとをももとめることを、止めるなんてできないのだ。

 「         」

 ことばは唇のかたちだけで伝わった。こんな曖昧さを自分に許したくはないのに。本当にらしくない。

 

 三日月のかたちで、唇が、おりてくる。含み笑うその吐息は確かにわたしを酩酊させる。


 あぁ。
 だから、嫌いなのだ。この酒臭い、
 唇。

 

 

 

 

 

 

 

ぼおいずらぶでよくあるあの感じを乱七でやってみた。